麻雀業界日報(保管)

麻雀業界日報(2003~2005)の保管

『麻雀人国記』(著・灘麻太郎、学習研究社) ISBN:405402484X

先月発行の麻雀読み物。著者は本誌の読者には説明不要、連盟会長の灘麻太郎プロ。結城信孝が構成を担当している。A5版243ページ、1575円(冒頭画像参照)。
「人国記」(じんこっき)とは「国別または府県別に、その地方出身の著名な人物を評論した記事、または書物」(Yahoo!辞書)のことであり、要は麻雀人物史。新聞「夕刊フジ」紙上で2001〜2003年に連載された同名のコラムをまとめるに際し、大幅な加筆・訂正を行った、と末尾に説明されている。
内容はといえば、歌手としてレコードを何枚も出している灘プロだけあって、芸能界に数多く存在する麻雀好き・麻雀狂の姿をいきいきと描きだしている。文章も元がコラムなので短くテンポよくまとまっており、麻雀ファンならば手元に置いて、気軽に楽しむべき。
以下つらつらと感想。

    • 紹介された77人の中で一番好きなのは将棋の大山康晴。タイトル戦の後に麻雀を打つことがリラックス方法とは恐れ入る。
    • 夏目漱石のエッセイ「満韓ところどころ」は従来、麻雀の風景を日本で初めて文章化したものとされてきたが、最近江橋崇教授によって、松本清司という人の『支那百題』という日記の記述(1907年)の方が古いという事実が公表されたという。とはいえ東洋文庫の情報を見る限り『支那百題』の刊行は1920年であり、1909年に新聞紙上に初出した漱石の文書よりだいぶ下る。
    • 女性の麻雀に一家言ある灘プロ。アガリに一直線で、周りを見ないで、ツキはじめると止まらないらしい。しかし登場する女性たちの雀風は本当に十人十色。
    • 三原脩が育成に長けていたかどうかは分からないが、彼の著作『風雲の軌跡』が相当癖のある、しかし抜群に面白い本であるのは確か。片山まさゆきが揶揄した大三元鳴き返しは、三原が最初だったのか。
    • 江夏豊のエピソードは「近代麻雀ゴールド2004年8月号でマンガ化された。もっと他に面白い人を取り上げた方が良かった気がする。
    • 宇野千代の項は麻雀大ブームのきっかけになった文士大逮捕事件について。現在レートで千点一諭吉。そりゃ捕まるわ。
    • 文字数が決まっているのと、一般紙に載っていたということで、麻雀の深い部分の話は控えめ。阿佐田哲也など、もう少し長めに語ってほしい人はいるのだが。

上では「気軽に楽しむべき」と書いたが、人物研究という観点では、この本が出版された意義は大きい。麻雀がいかに多くの人に親しまれているかの証拠でもあり、30年前から現在までの麻雀事情の貴重な記録でもある。
また、全く及ばないながらも麻雀について拙文を物している自分にとっては、麻雀の一事に執すればここまで達成できるのかと励まされる思いだった。まあそんな硬い事はおいといて、読んで楽しく、読み返してホウとうなる好著だった。さすが会長。
【参考】