麻雀業界日報(保管)

麻雀業界日報(2003~2005)の保管

『ALL LAST 平成雀ゴロデスマッチ闘牌録』(画・地引かずや+作・浜田正則、ISBN:4537103760)

2月9日発売、ニチブンコミックス(冒頭画像参照)。月刊「漫画ゴラクネクスター」2003年11月〜2004年5月掲載分を収録(単行本目次から引用)。定価580円。
浜田正則は『ミスターブラフマン』(画・張慶二郎)の原作者。地引かずやは『賭けゴロ』や『雀ゴロ血風録 烈』(3巻の感想)などで知られる。浜田の細かな描写と、地引の正統派劇画は相性が良いようだ。
麻雀で生活する雀ゴロ・江渡辰巳とそのオヒキ(弟子)・鎧敬一の物語。雀ゴロの生態や裏麻雀の実態はリアリティに溢れ、世代間の対立というテーマにも必然性がある。1巻に詰めこまれた構想は密度が高く、この濃さが続くならば間違いなく名作の部類に入るだろう。

  • 江渡は旦那衆(カモ)を「育てる」雀ゴロ。わざと負けたり、麻雀以外の部分で盛り立てたりしながら、少しずつ稼いでいる。安定した収入こそが彼の勝利で、「バランスを省みず明日に繋がらない勝ちなら…それは負けさ」と、旦那を麻雀で殺した後に自嘲する。
  • その江渡とコンビを組んでいるのが若い敬一。カリスマになろうとする気持ちが強く、安定志向の江渡に歯がゆさを感じ、単独で非合法麻雀の世界へ飛び込んでいく。「やっぱり雀ゴロは切った張ったが身上よ!!行き着く先は天国か地獄…真ん中は要らねえ!!」
  • この2人の対立は鋭く、妥協がきかない。「若いオオカミとベテランとでは、狩りの戦術が異なる」のだ。それに江渡はバブルで既に良い思いをした世代だが、敬一はまだ何も得ていない。「保身が一番」という江渡の言葉は、名声とスリルを求める敬一には届かない。
  • しかしまた、若い敬一のハネっかえりを年長の江渡が教え諭す、という一方的な視点も取られていない。それを端的に表しているのが、江渡の昔を知る男・デンと飲み屋のママとの会話。昔江渡は、適当な学生を見つけては金を貸し、返せなかったら学生ローンに借りさせ、返してきたら自分の舎弟にする、といった行為を繰り返していたらしい。敬一がその学生の中の一人であることは明らかであり、二人が信頼や友愛だけで結ばれている訳ではないことが示される。
  • 二人の対立を軸にして、さまざまな人物が配置される。カモになる旦那衆とはどういう種類の人間なのか、非合法麻雀に来る人間とはどんな性格をしているのか。
  • そしてリアリティ溢れる非合法麻雀の描写。廻銭やケツもちの実態、入り方や仕組み、暗黙の了解。まるで実際に取材したかのように生き生きと描かれる。

  • 個人的に一番好きなのは「ナポリ」のエース、「峰蘇多克男」(みねそた・かつお)。ミネソタってあなた、何人やねん。でも麻雀は渋い。
    六筒六筒六筒七筒七筒三索六索七索東東南西西 から六筒 をポンして 南 を切り、さらに
    六筒七筒七筒三索六索七索東東西西 ツモ五索七筒 をトイツ落とししていく。最後は 六筒 を加カンして
    三索四索五索六索七索西西西東東 リンシャンツモ八索。マンガみたいなアガリだ!!かっこいい。
  • 牌勢が落ちきった敬一が、それを利用して国士無双暗カン出アガリするところで1巻は終了。続きが非常に楽しみ。「流れが悪いと国士」は麻雀劇画の伝統である。
  • 巻末に浜田による「特別実戦テクニック」を収録。「赤麻雀でスキルアップしたのはチートイツ」という独自の理論を元に、詳しくチートイツの作り方・待ち方について説明してある。

ここ最近、20年くらい前の麻雀劇画を読んでいるのだが、物語の密度といい、麻雀である必然性といい、それらとは段違いである。麻雀劇画の進化を目の当たりにして、軽い興奮を覚えている。
問題はただ一つ、このマンガがまだ連載されているのかどうかであり、途中で中断していたら泣くに泣けない。どうか2巻が出ることを願って、長々しい感想を終えたい。
【追記】
「こんなものを買った。」のhappysad氏の情報によれば、単行本第2巻は3/9発売予定とのこと。あーよかった。
【参考】