麻雀業界日報(保管)

麻雀業界日報(2003~2005)の保管

追悼・安藤満

本紙既報の通り,安藤満プロ(連盟)は2004年3月27日に55歳で亡くなった.正式な追悼記事については次号の「月刊プロ連ニュース」「近代麻雀」,「月刊プロ麻雀」などで組まれることが確実なので,本紙では闘病の経緯,WEBでの反応,関わった作品などについて簡単にまとめてみたい.(文中はすべて敬称略).
【闘病】
安藤が自らの病気,食道癌について告白したのは昨年11月15日発売の雑誌「近代麻雀」12/15号のコラム「連盟ライブ中継」の中だった.
その後,11月30日発売の雑誌「麻雀王」のコラムでは,第2回天王戦優勝の報告と,「病気を克服して戻ってくる」という力強い締めの言葉が書かれていた.
土田浩翔(連盟・天王戦の運営者の1人)が述べているように,これが安藤最後の闘牌となった.

【訃報】
死去についての信頼できる最初の情報は,27日の夜,マンガ家日高トモキチ掲示板に,日高自らの手によって書き込まれた.その文中に「胡乱な情報を封じる一助ともなれば」とある通り,2ちゃん麻雀板には早くから「安藤満死亡」の悪質なデマが飛び交っていた.
明けて28日の朝には,ミュー(麻将連合)のサイト内のメンバー持ち回りで担当する日記に,井出洋介による追悼の文章が書かれた.
所属団体である連盟は,29日の午後,サイトのトップページに一行の訃報を載せた.これによって,死去は疑いようのないものとなった.

【反応】
28日の午後から,徐々にWEBでの反応が出始めた.多くはその早すぎる死を悼むものであり,『まあじゃんほうろうき』(西原理恵子)や『デカピンでポン』『さくさくサークル』(山崎一夫西原理恵子)に登場する「あくうかんでポン」なオヤジのイメージを投影したものが多かった.また安藤は人気連載マンガ『むこうぶち』『麻雀無限会社39ZANK』の原作者でもあり,その続きを危ぶむ声も見受けられた.
麻雀プロ各団体公認のオフィシャルサイト「Mahjong Walker」の編集長日記(3/27付)では,14年前の雑誌の表紙を飾った安藤の写真が見られる.:

【著作・出演作】
安藤が関わった作品について,知っている限りの情報.

//www.jfast.net/~izumick/images/ando_arahan.jpg" height="100" width="70">『阿羅漢 麻雀亜空間殺法の書』(しもさか保+安藤満):雑誌「近代麻雀オリジナル」に連載(1991〜1993).「亜空間殺法」の名を世に知らしめた作品であり,安藤の自伝物としての性格を持つ.昭和40年代前半を舞台に,主人公神崎充が様々な出会いの中で亜空間殺法を完成させ,麻雀界の頂点に立つまでを描く.「安藤満の実戦譜を元に描かれたコミック戦術書」という謳い文句の通り,密度の高い(当時としても)闘牌が堪能できる.
//www.jfast.net/~izumick/images/ando_mukoubuti.jpg" height="100" width="70">『むこうぶち』(天獅子悦也+安藤満):雑誌「近代麻雀」に連載中(2000〜).バブル経済の幕開けとなった1980年代後半を舞台に,高レートの場で魔物のように勝ち続ける「傀(カイ)」と,その餌食となる人間の勝負を描く.途中から安藤が闘牌を担当.作中人物「安永萬」は安藤の分身という見方がもっぱらである.流れの見極め方,相手を(麻雀で)殺す手管など,雰囲気溢れる名作.
//www.jfast.net/~izumick/images/ando_zank.jpg" height="100" width="70">「麻雀無限会社39ZANK」(本そういち安藤満):雑誌「近代麻雀オリジナル」に連載中(2001〜).麻雀稼いだ金で東京ドームをいっぱいにするという大望を抱いた若者二人の物語.闘牌を担当.主人公の成長物語として,あるいはオカルトチックな麻雀の深部についての考察として出色.作画が本そういちということもあって,珍しく色気のある作品になっている.
//www.jfast.net/~izumick/images/ando_hiden.jpg" height="100" width="70">『安藤満の麻雀 秘伝・亜空間殺法』:2003年発行の麻雀戦術書(ISBN:4839913293).1995年の「亜空間でポン」に加筆したもので,安藤が常に重視した基礎的な手組から,「亜空間殺法」の奥義まで幅広い範囲の戦術を収録.文章は平易かつ緻密であり,誰にでもオススメできる一冊.
//www.jfast.net/~izumick/images/ando_janroden.jpg" height="100" width="70">『雀狼伝 必殺!!亜空間殺法』: 2000年制作のVシネマ.佐々木慶太(連盟)が企画したらしい.渡辺裕之演じる安藤満が,生活や愛に苦しみながら亜空間殺法を確立する姿を描く.続編がパート3まである.自分は3しか見たことがないが,「麻雀親衛隊」「麻雀戦闘隊」などの時代がかった用語が頻発し,かなり楽しめる.情報についてはこのあたりを参照のこと.パッケージ画像もこちらから引用した.

『夢リーチファイター素人伝説』(片山まさゆき・2巻まで)
マンガ.雑誌「ヤングマガジンエグザクタ」に連載(1996).素人の挑戦を麻雀プロが受け止める企画物で,安藤もレギュラーとして出演していた.上記「Mahjong Walker」編集長が「面子コーディネーター」という怪しげな業界人として,また倉田真由美が素人として登場している.片山まさゆきの熟達した素人いじり芸を楽しめる良作.

東風荘の鉄人
WEB+マンガの共同企画.有名プロが「鉄人」となってネット麻雀「東風荘」で一般参加者と対戦する.その観戦記を赤峰亮介がマンガ化するというもの(現在も連載中).安藤はその「鉄人一号」として昨年7月に登場.代理人のクリックミスなどもあったが,無難な成績にまとめた.

モンド21「麻雀デラックス」
スカパーの麻雀番組.その初期から安藤は看板として登場し,丁寧な手筋と明確な解説で人気を博したらしい(マンセンゴ.NETさんの受け売り).現在放映中の「モンド21・麻雀王座決定戦」が最後の出場となり,番組のページでも訃報が掲載された.

【キーワード】
雑多に集めてみた.

名人位
双葉社主催の麻雀大会「麻雀名人戦」(1970〜2001)の優勝者のこと.安藤は第19期と28期の2回獲得している.上述の井出洋介の日記には,井出の4連覇を阻んだことについての言及がある.
鳳凰
日本プロ麻雀連盟のリーグ戦の勝者に与えられる称号.安藤は第2,5,6,10期の4回獲得.
麻雀戦闘隊
安藤が中心となって設立したグループ(1987ごろ?).活動内容はよく分からない.現鳳凰位の阿部孝則(連盟)が参加していたらしい.
牌理塾
安藤が中心となって開催された研究会(1999).団体を越え,錚々たるメンツが揃っていたことで知られる.
ファイナリスト
安藤は98年の名人戦から昨年の天王戦まで,4年以上もタイトルを獲得できない時期があった.2001年〜2002年にかけては,出場した3つの大会で決勝に進出しながら優勝できず,最後のマスターズでは相手の四暗刻によって夢を阻まれた.よほど悔しかったのか,『むこうぶち』7巻に同じエピソードを盛り込んでいる.
亜樹タン
二階堂亜樹(連盟)が安藤に憧れてプロを目指したのは有名.他にも,安藤に私淑する麻雀プロが数多くいることは言うまでもない.どうでもいいことだが,自分が安藤に一度だけ会ったのも亜樹タンと同じ「きらきら惑星」だった.
宅建
安藤が持っていたという資格.若いころ不動産会社に努めており,「麻雀プロになるから辞めます」と言ったら呆れられた,というエピソードはエッセイなどで何度も書いている.

【終わりに】
随分と長く書いた.これでもまだ足りない気もするが,同時に「こんなに書いて何の役に立つ」という思いも強い.亡くなってから書くくらいなら,普段から書いておけばいいのだ.来賀友志の言葉を借りれば「夢の転ばぬ前に」.
そんな自分を支えたのは,21世紀の幕開けに際して安藤が寄せた談話だった.長くなるが,全文引用して,この記事を終えたい.

これからは、様々なメディアで麻雀が取り上げられるようになり、プロの存在価値が、本当の意味で問われる時代になると思う。インターネット一つを見ればわかると思うけど、メディアの形は大きく変わり始めている。テレビと活字媒体だけの時代から、個人でも情報を発信できる時代になった。ここで対応が遅れるのは致命的になりかねない。
新しいメディアと既存のメディア、そのどちらにも麻雀プロが必要とされるよう、そのための努力を惜しまずにやっていかなくてはならない。

月刊プロ麻雀」2001年3月号12ページより引用